煙草の香りー思い出

今ではもう解体され、更地になり、アパートが建ったそこにはかつて、1つの邸宅があった。祖母の実家である。

 

祖母の住居からは歩いてほんの2-3分もしない距離にあったその邸宅に住んでいたのは、祖母の兄だ。

 

祖母は●人兄妹で、祖母の実家を引き継いだのがこの長兄だった。

 

葬式会場として親戚が集まることのできるほどの座敷の広間があり、広い芝生の庭には鯉を飼う池。ゴールデンレトリバーの「●●●●」が走り回ることができるくらいにはじゅうぶん広かった。

 

私たちにとってそこは「●●ちゃん家(ち)」だった。

●●ちゃんは、祖母の兄の孫だ。すなわち私にとっては、はとこにあたる。

10歳ほど歳上のお姉さんだったろうか。

 

「●●ちゃんち」にいつも漂う煙草の香りが好きだった。甘く、香ばしい。板張りの床に染み込んでいる。まるでウォールナットの床が甘い香りを醸しているかのようだった。

たいてい、主人である祖母の兄本人は不在にしていた。主人の妻、つまり●●ちゃんのおばあちゃんがいつも出迎えてくれた。

けれども主人が残した香りであることがわかった。

 

 

ボスのように度量の広く、煙草をくゆらせながらソファに腰掛ける。どっしりと構えた男に見えたが、祖母は兄に対して批判的だった。

というのも実家の財産を独り占めしたうえ、バーの開業に注ぎ込み、経営に失敗してしまったからだという。

 

この長兄の息子は●●●●●の青年会会長で、●●●●●で●●●記録を打ち立てるのに尽力するなどした人だったが、●●●である嫁は横領で捕まった(?)りしたあげく、離婚した。

彼が「●●ちゃん」の父親に当たる。

 

祖母の兄が亡くなったあと、邸宅を売り払ったのは彼だ。

妻と離婚し、子供2人が独立したあと、かつて所有していた土地の近くにこじんまりとした家を建てて暮らしていると聞く。

 

今ではその邸宅を訪れることもないし、かつてそこに暮らした人達に会うこともない。

 

 

・・・

 

かつてその土地が「●●●」と呼ばれたのは、●●の家しか建っていなかったからだという。

その中の1つが祖母の実家だった。今では住居が密集している。●●駅も近く、景観もいい。すぐに国道に出られるし、近くには●●川が走っている。散歩すればすぐそこには●●橋だ。

祖母の自宅を訪れた際には、よく自転車、あるいは徒歩で、駅や●●図書館を訪れたのは懐かしい。

 

祖母はよく、戦時中の体験を話していた。

 

-5/23のメモより